妄想特急 books & music

読んだ本と聴いた音楽のメモ

北村薫

1950年のバックトス (新潮文庫)

1950年のバックトス (新潮文庫)

ミステリではない北村薫。しかしあのやさしい物語の感触は健在。
ミステリじゃなくてもあっと驚く仕掛けがある短編もあり、なかなか楽しめた。
ちょっと怖い話もいくつか収録されており、これがとてもうまい。もちろん怖いが、組み立て方のうまさが光る。
「百物語」はどこかのアンソロジーで読んだことがあった。これがとてもいい。終わり方が怖くていい。
「包丁」も怖かった。話のある瞬間、ぞわーっときた。想像しただけでも怖い。
それらに比べて日常を淡々と描写した作品はどこまでもふわっとしていて、最後の「ほたてステーキと鰻」なんかはまるで向田邦子を読んでいるような感じだった。
淡々系ではないが「眼」という短編は素晴らしかった。わずか5ページの話の最後の鮮やかさ。こういうところに北村薫らしさがいちばんよく出ているのではないだろうか。