妄想特急 books & music

読んだ本と聴いた音楽のメモ

誰もが一度は読むべき本

関東大震災』 吉村 昭 著 (文春文庫)
新装版 関東大震災 (文春文庫)
関東大震災の被害の様子を、数々の資料や証言から克明に書き綴った大作だ。昭和48年に書かれたものだが、現在<新装版>として出ている。
関東大震災のことを良く知りたいなとふと思って手にとった。漠然と知っているだけでじつは何も知らないと感じたからだ。そして読んでみて驚いた。これほどの惨事だったとは。
被害に遭った場所の様子が書かれているが、それはまるで戦争の焼け跡を描写しているかのようだった。戦争被害のノンフィクションを読んでいると勘違いしてしまうくらいだ。そのくらい悲惨な様子なのである。
東京よりも神奈川、横浜や藤沢、茅ヶ崎の辺りの方が被害が大きかったというのも初めて知った。そして建物が崩壊して圧死した人よりも、地震の後の大火災によって命を落とした人の方が格段に多かったというのも知らなかった。グラッと揺れたらまず火を消すというのは本当に正しいのだなと思った。
そしていちばん驚いたのが、本書で「第二の悲劇」として書かれている“人心の錯乱”である。地震でもう何が何だかわからない、まわりは戦争の焼け野原のようになっている、どうやったら助かるのか、これからどうなるのか、といったことを考えて人々の心がパニックになってしまう。そこへいろんな噂、流言・飛語が流れる。これが本当に恐ろしい結果を生み出すことに繋がるのだ。いちばんすごかったのが「朝鮮人が襲ってくる」というものだった。まったく根も葉もない噂なのに、それで殺人がいたるところで起こってしまうのだ。
話はそのあと大杉栄事件まで広がっていく。これも恐ろしい事件である。
これだけのものを書くのにどれだけの資料と取材と時間をかけたのだろうかと、目が廻る思いだ。そして関東大震災がこれだけ悲惨な災害だったということにすごい衝撃を受けている。
今後またいつ大地震が発生するかわからない。そのときにこのようなことがまた起こらないとは限らない。まずは一度この本を読んでみてほしい。