井上夢人ひさしぶり

オルファクトグラム(上) (講談社文庫)

上下巻だけどその長さをまったく感じさせない。さすが井上夢人。
姉を殺した犯人に殴られ、それが原因で犬並みの嗅覚を身に付けてしまった主人公が、その犯人と失踪したバンド仲間を探すミステリ。
突拍子もない非現実的なシチュエーションだが、繰り返しとても丁寧に話を書いているため、すんなり入っていける。
この能力がなければ事件は解決しなかったかと思うと、純粋なミステリとはいえない。でもこの話の核はそこにはないと思う。かなり切ないラストを見るとこれはラブストーリーとも読める。
犬並みか犬以上の嗅覚をどうやって文章化しているか、ここも読みどころだ。まるで見てきたかのように書いている。イメージがしやすくとてもビジュアル的だ。これは映像化したらおもしろいだろうと思ったら、すでにされているらしい。見ないけどね。イメージが壊れると嫌だもの。