妄想特急 books & music

読んだ本と聴いた音楽のメモ

いまいち

 

ぞぞのむこ (光文社文庫)

ぞぞのむこ (光文社文庫)

 

 ホラーはあまり読まないのだが、タイトルでもしかして期待できるかもと読んでみた。

いまいちだった。

私がホラー小説全般に感じることなのだが、そもそも全然怖くない。映像と違って文章で読者の頭の中に怖いイメージを作り出させなくてはならないのは、相当力のいることなのだと思う。

これもまったく怖くなかった。気持ち悪いというのは少しあったが。

ホラーが怖くないとなるとそれ以外のプラスアルファの要素がないと厳しい。ミステリだったり、エンターテインメント寄りだったり、ストーリーがおもしろかったり。

これはそこも弱い。

文章もあまり上手いとは思えなかった。

この著者は賞を獲るまで下積みが長かったらしいが、申し訳ないがさもありなんと思ってしまった。

微妙

 

田舎

田舎

 

 山本直樹の新作。

オビに「新境地!」とか書いてあるのでちょっと期待した。

確かに今までとはちょっと違うけれど、悪い方へ変わっている気がする。

『レッド』を書いて溜まってたんだろう。単なるエロ漫画になってた。

『フラグメンツ』や『明日また電話するよ』みたいなエロいんだけどちょっと薄気味悪いような気持ち悪い違和感が好きだったのに、それがまったくなく、ただやりまくるだけのストーリー。

そういうのが好きな人には「理想」のストーリーだ。作者の願望が如実に現れてる。

まあそういうもんかな

 

旅人の表現術 (集英社文庫)

旅人の表現術 (集英社文庫)

  • 作者:角幡 唯介
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
 

 著者が雑誌に書いた記事や、他人の本に書いた解説、対談記事など、さまざまな記事を集めたもの。

古いものはデビュー当時のものまで掲載されている。

著者の探検に対する考え方が随所に現れていて、探検などしない人が疑問に思う「なぜ極地などの苦しい場所へ命の危険を顧みずわざわざ行くのか」という問いに対する答えが繰り返し出てくる。

要は現代社会は「死」が隠されていて、人々は死を意識することなく生活している。その裏返しで「生」も殊更感じられなくなっているので、探検で「死」に近づくことでその「生」を実感するのだという。

おそらくそうだろうと思っていたことだったので、とても納得できた。

ところが、あとがきを読むと、これらを書いた10年くらい前と今の考えは全然違うらしい。そりゃ10年もたてば人間考えは変る。

でもその考えの違うエッセイを著者は本として出したくはなかっただろうなと思う。

たとえ文庫としての再発だとしても。

 

うまいなぁ

 

噂の女(新潮文庫)

噂の女(新潮文庫)

 

 これはうまい。おもしろかった。

収録されている短編に共通して出てくる女性。これが「噂の女」だ。

ちょっとずつ出てきて強い印象を残していく、何者かわからない感じがちょっと不気味でもあり、小気味よくもあり。

このなんだかわからないが気持ち悪いというのがうまい。

奥田英朗だから話がおもしろいのは保証できる。

楽しい!

 

町あかりの昭和歌謡曲ガイド

町あかりの昭和歌謡曲ガイド

 

 歌手・町あかりが自分の好きな昭和歌謡曲をどんどん紹介する本。

ご自身も歌謡曲チックな曲を作って歌っているけど、リスナーとしてそんなに昭和歌謡を聴いているのだろうかとちょっと疑っていたところもあったんだよね。イベントなどはやっているがそれも仕事だからなのかもとか。

ところがこれを読むと高校生の頃から昭和歌謡をガンガン聴いていて、もう完全なマニアですよ!

歌に全然興味がなかったのに、サザンの『君こそスターだ』を聴いて大ファンになったというのも昭和のおっさんにとっては驚きだし(だって『君こそスターだ』なんて最近だよ・・・)、そこからキャンディーズへ行き、昭和歌謡全般に興味が広がるのもすごい。さらにはシンガーソングライターになっちゃうのもすごいけど。

本の中では「昭和歌謡には自分より詳しい人はたくさんいるし、自分は後追い世代だからいろいろ教えてくださいね」みたいなことを書いているが、この人、立派なマニアです。

それもマニアにありがちな「重箱の隅を・・・」ではなく、ただひたすら「好き!」っていうだけで楽しそうに書いている。これがすごくいい!

だから「ガイド」とあるが「歌謡曲大好きエッセイ」なんだな。

装丁大好き

 

装丁物語 (中公文庫)

装丁物語 (中公文庫)

  • 作者:和田 誠
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
 

 和田誠が今までやってきた装丁について書いた本。

和田誠さんが好きだし、装丁も好きだし、そりゃおもしろかった。

和田さんはイラストレーターとして有名だけど、これを読むと完全にデザイナーとして装丁に取り組んでいたんだなと思う。

自分で絵を描いていない装丁なんて山程あるもん。

今の装丁家(デザイナー)のやり方を知らないけど、多分ここに書いてあるやり方も古いタイプなんだろうな。パソコンがあればある程度まで自分でできそうだ。

昔の方がよかったというつもりはない。こういう手触りの装丁をパソコンで出せればいいね。

和田さんは表4のバーコードについては相当に怒っている。そういや最近バーコードは話題にならないなと思って本を見てみたら、特に変わった様子もなくあの当時と同じ佇まいでドカっと鎮座していた。これが当たり前になっちゃったんだと悲しくなったな。

文句を言うデザイナーはいなくなっちゃったんだろう。世の中そんなもんか。

 

勢いがあっておもしろい

 

騙し絵の牙 (角川文庫)

騙し絵の牙 (角川文庫)

  • 作者:塩田 武士
  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: 文庫
 

 出版業界を舞台にしたとてもおもしろい小説。

これは最初から大泉洋を主人公のモデルにして書いたのだそう。あて書きというかそういう企画なんですね。

だから当然映像化されて映画となって公開前という状態らしい。

でも読んでいるうちはそれほど大泉洋は浮かんでこなかった。まあ軽口がうまいっていうのがそれっぽくはあるけど。

内容は出版業界でのあれこれ、権力闘争やら紙の雑誌の衰退で売上が落ちてどうすんだという話とか、そういう業界あるあるだね。出版業界版“半沢直樹”というか。

どんでん返しとあるけど、そこまで驚きはしなかった。まあそういうこともあるかなという感じ。

しかし『罪の声』とは全然違う作風で驚いた。この人はその2冊しか読んでないけど、他も読んでみたい。