妄想特急 books & music

読んだ本と聴いた音楽のメモ

なかなかのアイデア

『親愛なる』いとうせいこう

これはなかなかのアイデアだ。
一般の書店には売っていないサイトから注文する小説で、注文主の名前などの情報からそれぞれの本がパーソナライズされるという画期的なもの。
つまり小説の中身に自分の名前が出てきたり、最寄り駅の名前が出てきたりという、「本」という形では今までなかったアイデアだ。
まあ思いつきをやってみたという感じだから、読む人によって変わっている部分はほんの少しだし、まだまだお遊びという感じは拭いきれない。こういうこともできるんだ、という驚きを提供してもらったにすぎないかもしれない。
このアイデアを元に、どんどん進化していくのを見てみたいし、もしかするとそれは本以外の形になってしまうのかもしれない。
肝心の小説の中身だが、近未来の韓国が舞台のどこか『ブレード・ランナー』のような世界観だ。ストーリーはあまりなく、観念的な話がつながっていく。メールの文面から始まる(というかすべてメールの文面という設定だ)ので、ずっとそのままメタ小説として進むのかと思った。その方向で全編貫いてくれてもよかったけど。
この注文する人によってパーソナライズされる小説というアイデアを最大限に生かしたものが、他の著者でもいいので現れてくれると楽しいなと思った。