妄想特急 books & music

読んだ本と聴いた音楽のメモ

高野和明はいい!

13階段高野和明 著(講談社文庫)
13階段 (講談社文庫)
「いい!」とは言ったが、これしか読んだことがない。すまん。でもそれだけ良かったということですよ。
第47回江戸川乱歩賞受賞作品である。選考委員が満場一致で選んだというからその完成度がわかるだろう。しかもほとんど論争もなく決まったらしい。
当時の選考委員である宮部みゆきが解説を書いているが、手放しで褒めているのが印象的。オビにも“宮部みゆき氏 絶賛!!!”のデカい文字が並ぶ。それにつられて手を出したというのもある。そりゃ出版社も宣伝に使うでしょうよ、宮部みゆきが絶賛してれば。はは。
犯行時の記憶がなくなっている死刑囚に冤罪の疑いがかかっているという。しかし処刑まで時間がない。真犯人を探し出さなければ死刑が行われるのは確実だ。刑務官の南郷と出所したばかりの青年・三上は死刑囚が思い出した“階段”という記憶の手がかりだけをたよりに捜査に乗り出す。
冤罪の可能性のある人間が処刑されてしまうかもという時間的スリル、これがいちばんのキモだろう。しかも最後のほうには「えぇっ!?」というような驚きの展開もあるし、ミステリとしての完成度は高い。
しかし、この作品はそれだけではない。死刑に関する描写がしっかりしているため読んだ人は必ず死刑制度について考えさせられるはずだ。死刑とは何なのか。国が行う殺人ではないのか。それをやらされる刑務官の苦悩。そういったことが頭を渦巻く。物語としても重厚だ。
ほとんどクセのない文体も内容にふさわしい。これは大事なことだ。
高野和明は『幽霊人命救助隊』も評判がいいと聞く。目が離せない作家になりそう。
(この作品は映画化もされたが、著者本人も宮部みゆきも映画の出来には不満だそう。映画でガッカリした人も読んでみよう)