『朝霧』北村薫 著（創元推理文庫）
至福の時が終わった余韻でふんわりした気分です。
北村薫の《円紫師匠と私》シリーズの第5作目。誰がなんと言おうと僕の大好きなシリーズだ。このやさしいやさしい安易に触れるとぱちんと壊れてしまいそうなシャボン玉みたいな物語は、もうミステリなんかのジャンルに分けるのは申し訳ない。
謎は出てくるし、円紫師匠はあっという間に謎を解いてしまうし、それはミステリの形をとっているかもしれないけれど、この小説は主人公の《私》の成長を読むものなのだ。
4作目まで大学生だった《私》が出版社の社員になっている。「あの子がねぇ」と知り合いでもないのに、そして物語の中の人なのに、そんなふうな感慨をもってしまう。その性格のままいい大人になれよと親にでもなった気分だ。
それから中に出てくる本の数のすごいことといったら。しかも落語家の円紫師匠が登場人物にいることもあって、落語に関することがたくさん出てくる。
こいつが知的好奇心をそそるんだなぁ。著者の博覧強記には恐れ入る。
落語も最近聞いてないし、寄席にでも行ってみようかなぁ。なんだか落語モードになってきた。
