『マドンナ』 奥田英朗 著(講談社文庫)
抜群のリーダビリティを誇る作家、奥田英朗。『邪魔』『最悪』等、長編なのに短篇を読むが如くあっという間に読めてしまうおもしろい作品を書く作家だ。
そしてそれは短篇集でも同じだった。次々に展開するストーリーは途中でやめることができない。気がついたら一篇が終わっている。
『マドンナ』は5編の短篇が入った作品集だ。
表題作の主人公は42歳の管理職のサラリーマン。彼の部署に26歳の女性社員が異動してくる。そしてその女性社員は自分の好みのタイプだった。いけないいけないと思いつつ彼女を気にしてしまう。中年男の淡い思いはどうなってしまうのか。
特に過激な展開があるわけでもなく、恋と呼べるほどのものでもない。そんな中年の男の哀しくもおかしい心情が見事に描かれている。
その他の短篇も中年男を主人公にしている。同年代の人が読んだら身につまされること請け合い。
同年代じゃなくても、男なら「わかるわかる」と思うだろうし、女なら「おじさんってこんなこと考えてるんだ」と思うだろう。
軽く読めるのに意外に奥が深い作品集だ。