妄想特急 books & music

読んだ本と聴いた音楽のメモ

すごい本ですわ

『こんな夜更けにバナナかよ』 渡辺一史 著(北海道新聞社)
こんな夜更けにバナナかよ
なんと言っていいのか。衝撃の一冊である。おおげさに言うなら、かつてこれほどまでに価値観を揺さぶられたことはない。
筋ジス患者である鹿野氏とそれを支えるボランティアの話だ。難病でありながら自宅での自立生活を望む鹿野氏は何をするにも他人の介助なしでは生活できない。そこで24時間、交代制でボランティアに来てもらうしかない。人工呼吸器を使っているので、痰がつまらないように吸引しないと窒息して死んでしまうし、寝返りをうつことができないため夜中に定期的に体位交換という体の位置をずらすことをしてもらわないといけない。まさに24時間他人と関わって生きているのだ。
しかしこれを頑張って生きる難病患者と献身的に支えるボランティアの美談だと思ったら大間違い。はっきり言って僕はボランティアとか介護とか福祉とかのイメージを根本から覆された。美談でもなんでもない。
鹿野氏はボランティアをビシビシ教育するのである。わがままだし口は悪いしで、時にはケンカになるときだってある。うまく介助ができないと怒るし、癇癪をおこせば「もう帰れ! 二度と来るな!」と怒鳴りつける。それでもボランティアの主婦や学生は鹿野氏を介助する。それはなぜか。どうしてそこまでしてボランティアは鹿野氏とともにいるのか。この本はそこに踏み込んでいく。
介護のプロは他ならぬ障害者その人である。だから介護をする側にやり方を教え込ませることができる。鹿野氏にとってみれば介助をうまくやってもらえなければすぐに死が待っているのだ。必死になるのもわかる。
つまりは介護する側・される側ではなく、人と人とのぶつかり合いなんだと思う。
僕はこの本を読んで自分の中の何かが確実に変わった。鹿野氏に直接かかわったボランティアたちとは比べるべくもないが、自分も影響を受けたと言えるのだと思う。すぐに仕事に影響が出るとかではない。でもずっと何十年か先、この本を読んだことが転機になっていたんだなぁと思えるときが来るような気がする。また、そうなったらいいとも思う。