妄想特急 books & music

読んだ本と聴いた音楽のメモ

久しぶりの清水義範

『みんな家族』 清水義範 著(文春文庫)
みんな家族 (文春文庫)
これは力作だ。
昭和史を振り返る大河小説は数多くあろうが、こんなにわかりやすく読みやすい小説はあまりないと思う。
昭和元年から現在まで、ある家族を追っていくことで昭和の時代がどんなものだったのかを描き出す。ある家族ということは庶民である。普通の人がどんな生活を送っていたか、そこに焦点を置くことによってとてもリアルな昭和史が覗けるのだ。
これはつまり大きな事件が起こっても、たとえ新聞に載るような大きな出来事でも庶民にはあまり関係ないことも多いということだ。自分の生活に直接かかわりがなければ新聞を読んで「なるほど」で終わってしまう。それが普通の生活だ。それは昭和初期でも同じ。
戦争が起こっても恋愛はするし、あまり影響がない部分はある。そこもまじめに描いていく。
それにしてもこれを読んで思うのは、昭和という時代はなんとドラマチックだったのだろうかということ。ドラマチックというと語弊があろうか。戦争のどん底の生活をしたかと思えば、高度成長期の華々しい過程、バブル経済の崩壊・・・、すごい変化である。同じ昭和なのだろうかと思うほどである。
それに比べると平成はもう16年以上になるが、あまりドラスティックな変化はなくのっぺりしすぎているような気がする。
どちらが良い悪いは置いておいて、社会がもう飽和状態にきていっぱいいっぱいになっているのでないか。表面張力状態と言ってもいい。
この作品は肩肘張らずにさらっと(庶民の)昭和を見ることができる稀有な小説だと思う。